やっかいな「現在バイアス」について

「現在バイアス(present bias)」って聞きなれないワードかもしれませんが、人間の行動経済学では、多くの人が即時の報酬を遅延された報酬よりも高く評価する傾向があることを指摘しています。これを「現在バイアス」といい、目の前の小さな報酬を将来の大きな報酬よりも優先する心理的傾向を示します。これは、目先の不利益が将来の利益よりも重く感じられる場合にも当てはまります。

現在バイアスは医療行為においても重要な役割を果たします。このバイアスがあるために、患者は短期的な不快感や不便さを避けるために、長期的な健康利益を犠牲にする選択をしがちです。

  1. 服薬コンプライアンス
    患者が処方された薬を正しく、定期的に服用することは、治療の成功に不可欠です。しかし、現在バイアスのために、患者は薬の即時の副作用や服薬の面倒さを避けるために、服薬を怠ったり、完全に止めたりすることがあります。これは、特に症状が目立たない慢性疾患の管理において顕著です。
  2. 予防行動
    健康診断やワクチン接種などの予防行動は、将来の健康リスクを減らすことができますが、これらの行動は即時の利益を提供しないため、現在バイアスにより避けられがちです。例えば、インフルエンザのワクチンは打つときの痛みや、その後の一時的な副反応を避けるために受けない人がいます。
  3. 生活習慣の変更
    健康的な食事や定期的な運動は、長期的な健康に大きな利益をもたらしますが、現在バイアスにより、人々はより即時の満足を与える選択(例えば、ファストフードを食べる、運動を避ける)をしがちです。
  4. 遅延治療
    病気の初期段階での治療は、将来的により深刻な健康問題を防ぐことができますが、現在バイアスのために、患者は治療を遅らせることがあります。これは、治療に伴う不快感やコスト、時間の投資を避けるためです。

現在バイアスを克服するために、患者啓発や教育を通じて、長期的な健康利益の重要性を強調する試みがなされていますが、やり方次第ですが、もともと患者にとって興味が薄い場合は効果はあまり期待できないのではと感じています。
それよりは、リマインダーシステムなど電話、メール、アプリなどを使用して、患者に服薬や予防行動を直接、想起させるほうが効果があるのかなと思います。あるいは、行動経済学的インセンティブ、具体的には目標達成(服薬遵守や体重管理など)できたら、保険料を割り引くとか、換金性のある健康ポイント制度はすでに試みられている対策でそれなりに効果があると思います。さらに、治療計画をできるだけ簡単にすることで、患者がそれに従いやすくなると思います。

お伝えしたかったのは、医療における現在バイアスの理解と管理は、患者の健康行動を改善し、治療成果を最大化するために重要だということです。

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