EBMの基づく医療は大切ですが・・・


エビデンスに基づく医療(EBM: Evidence-Based Medicine)は、最良の利用可能な研究データに基づいて医療決定を行うアプローチであり、重要な方法論だと思います。また、この方法論は医療の質を向上させるために診療ガイドラインなどにも広く採用されていますが、EBMに偏重することにはいくつかの弊害や限界があるのではと思います。

EBMは一般的に大規模な研究や平均的な結果に基づいています。つまり、最大公約数的な考えだと思っています。しかし、これにより、個々の患者のユニークな状況やニーズが十分に考慮されない場合があります。特に、標準的な治療法が適さない特異な症例において、柔軟性の欠如が問題となることがあります。EBMの偏重は、医師の個人的な臨床経験や直感を軽視する傾向につながることがあります。臨床経験は、患者の診断や治療において重要な役割を果たすことがあり、これを無視することは最適な医療提供を妨げる可能性があります。当たり前と言われるかもしれませんが、医師の個人的な裁量は必要だと思います。しかし、医療分野でも同調圧力が存在し、特に上級医師や専門家の意見に同調する傾向があります。これは、経験の浅い医師や看護師が上級者の意見に異を唱えにくい環境を生み出すことがあります。

また、EBMは既存の研究に大きく依存しています。そのため、新しい治療法や革新的なアプローチが十分な研究データを持たない場合、採用が遅れることがあります。これは、特にがんや免疫、再生医療などの分野など急速に進化する医療技術の分野で問題となることがあると考えます。

一方で、様々な疾患が存在しますが、すべての疾患に対して高品質かつ包括的な研究が存在するわけではありません。また、出版バイアスにより、特定の結果のみが強調されることもあります。

それから、よく言われていることだと思いますが、医療従事者はEBMは科学的なデータに重点を置いていますが、患者は必ずしもそうではないということです。この乖離が患者の個人的な価値観や選択、生活の質に関する考慮が不足することにつながると思います。大げさに言うと、医療は患者中心であるべきですが、EBMの偏重はこの原則から逸脱する可能性があるといえないでしょうか。

これらの潜在的な弊害に対処するためには、EBMを適用する際には、個々の患者の特異性、臨床経験、患者の価値観や希望も考慮に入れるバランスの取れたアプローチが必要だと感じています。継続的な研究とデータの更新はむろんですが、こういった弊害に対処するための教育と訓練が必要だと思います。実際に、患者憲章など作成して普及を試みたり、スキルとして医療面接(コミュニケーションスキル)の向上を図ったりできるセミナーやワークショップが開催されいるようです。

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