アレルギーと喘息におけるSiglecs(シアル酸結合免疫グロブリン様レクチン)の役割について
1. アレルギーと喘息における役割
- 免疫応答の調節: Siglecsは免疫応答を調節することができ、これはアレルギー反応や喘息において重要と言われています。細胞表面のシアル酸と相互作用し、アレルギー反応に関与する好酸球、好塩基球、肥満細胞などの免疫細胞の振る舞いに影響を与えます。具体的には、細胞表面受容体-糖鎖相互作用は細胞接着、シグナリングなどに使われています。
- 好酸球の調節: 喘息やアレルギーでは、好酸球(一種の白血球)が増加することがよくあります。Siglec-8のような一部のSiglecsは好酸球に特異的に発現し、活性化すると細胞死(アポトーシス)を誘導し、炎症を減少させる可能性があります。
- 肥満細胞の抑制: 肥満細胞はヒスタミンなどの媒介物質を放出し、アレルギー症状に寄与します。Siglec-8やSiglec-9のような特定のSiglecsは肥満細胞の活性化を抑制し、アレルギー反応を減少させる可能性があります。
- 気道炎症への影響: 喘息では、気道の炎症が主な特徴です。Siglecsは気道内の免疫細胞の活動を調節し、炎症の程度や重症度に影響を与える可能性があります。
2. 治療への意義
- 標的治療: Siglecsのアレルギーと喘息における役割を理解することで、標的治療の開発が可能になります。例えば、好酸球や肥満細胞のSiglec-8を活性化させてその活動を減少させる戦略は、特定のアレルギー疾患や喘息の治療に役立つかもしれません。
- 疾患のバイオマーカー: 特定のSiglecsの発現レベルは、アレルギー疾患や喘息の重症度やタイプのバイオマーカーとして機能する可能性があり、診断や治療計画のさらなる向上に寄与するのではと思います。
3. 研究と課題
- 進行中の研究: アレルギーと喘息におけるSiglecsの機能全体はまだ研究中で、異なるSiglecsが免疫細胞とどのように相互作用し、病理に寄与するかを理解するための研究が進行中です。
- 機能の複雑さ: Siglecsは異なる免疫細胞に対して多様で時に重複する機能を持ち、他の免疫プロセスに影響を与えずに標的治療を開発することはかなりチャレンジングな試みだと思います。
4. 結論
Siglecsはアレルギー疾患や喘息の理解と治療において有望な研究分野です。免疫応答を調節する能力は、現在の治療法に比べてより標的性が高く副作用が少ない新しい治療法の開発への道を開く可能性があります。しかし、彼らの役割を完全に理解し、治療的に操作する方法を見つけるためには、さらなる研究が必要です。
参考:Siglecs in allergy and asthma Molecular Aspects of Medicine Volume 90, April 2023, 101104
Siglecs in allergy and asthma – ScienceDirect

上図はヒトのSiglecsは、模式図で(各楕円は免疫グロブリン様ドメインを表します)、そしてそれらを発現する代表的な細胞タイプが下に示されています。抑制型Siglecs(免疫受容体チロシンベースの抑制モチーフ(ITIM)を持ち、チロシンホスファターゼSHP-1をリクルートする)は淡い青色の背景で、活性化型Siglecs(膜貫通ドメインに陽性荷電アミノ酸残基を持ち、アダプター蛋白質DAP12と相互作用し、その結果チロシンキナーゼSykをリクルートする)はオレンジ色の背景で示されています。Interaction of pathogens with Siglecs (glycoforum.gr.jp)
