Preclinical atherosclerosis and asthma

前臨床段階の動脈硬化症と喘息

s12872-025-04652-5.pdf

ウィンダーらは、2022年1月号のBMCにおいて、「思春期におけるアレルギー性喘息と頸動脈内膜中膜厚(cIMT)の関連:前向き早期血管老化(EVA)-チロル・コホート研究のデータ」というタイトルの論文を発表し、喘息と心血管リスク因子(CVRF)の関係を検討した 。

著者らは「近年、喘息と心血管疾患(CVD)の関連性を示すエビデンスが蓄積されている。…ヒトのアテローム性動脈硬化症における炎症過程と免疫系の重要な役割を踏まえると、慢性的な炎症――喘息の特徴的な所見――を抱える人々がCVDにかかりやすいことは理にかなっている」と述べている。

この潜在的な関連性を調べるために、著者らは前臨床的アテローム硬化症の超音波代替指標として頸動脈内膜中膜厚(cIMT)を使用した。地域ベースの非無作為化対照試験で、平均年齢17.8歳(標準偏差:0.90)の1,506人を対象に調査が行われました。そのうち、アレルギー性喘息患者は58人(3.9%)、医師診断による吸入アレルギーは268人(17.8%)、非アレルギー性喘息は22人(1.5%)、喘息や吸入アレルギーがない者は1,158人(76.8%)であった。

cIMTの測定は、高解像度の超音波により、総頸動脈(CCA)の遠位壁において実施した。著者らは「左右両側の遠位4 cm部分における縦断的画像の中から3つの代表的測定値を、超音波技術に熟練し、被験者の臨床的特徴を知らない評価者が、デジタル保存された画像から取得した」と記載している。「6つの測定値の平均(cIMTMEAN)が本解析に使用された」とも述べている。

非アレルギー性喘息(411.7 vs. 411.7 μm、p = 0.932)および吸入アレルギー(420.0 vs. 411.7 μm、p = 0.118)のある被験者は、健康な対照群と比較して有意なcIMTの増加は認められなかった。しかし、「アレルギー性喘息を有する被験者は、非該当者と比較して有意に高いcIMT(430.8 vs. 411.7 μm、p = 0.004)を示し、この関連は既知のCVリスク因子を調整した後でも有意であった」と報告されている。

著者らは「我々の解析により、思春期におけるアレルギー性喘息とcIMTの増加に有意な関連が示された。したがって、医師は小児および思春期のアレルギー性喘息を潜在的な心血管リスク因子として認識すべきである」と結論づけている。

しかしながら、著者らの結果および結論をよりバランスよく評価するには、いくつかの指摘が必要である。

ウィンダーらはcIMTを総頸動脈(CCA)の遠位壁のみで測定しており 、単一部位での測定は、動脈硬化が不均一に進行する性質から、正常な部分に一致する可能性がある一方で、アテローム性変化のある他部位を見逃す可能性もありうる。複数部位(例:CCAの近位・遠位壁、分岐部、内頸動脈など)を含む複合的なcIMT測定の方が、動脈全体の実際の状態をより正確に反映し、CVDの予測因子としても優れている。

さらに、正確な測定を行うには、cIMTの測定を心周期と同期させることが望まれる。なぜなら、血管径は心周期(収縮期と拡張期)によって変動するため、cIMTの値も変動するからである。しかし、ウィンダーらの研究では、測定が心周期と同期されていたかどうかが明記されていない。このため、測定値の差は心周期の違いによる可能性も否定できまない。

また、cIMTの「異常値」に関するカットオフ値については統一されたコンセンサスはないものの、600 μm未満であれば正常範囲内であるという認識は一般的に共有されていいる。ウィンダーらの報告によるアレルギー性喘息群の平均cIMT(430.8 μm)は、依然として正常範囲内であり、診断的または予後的な価値はないと考えられる。

さらに、年齢群ごとのcIMT測定の標準化の必要性も指摘されている。

したがって、ウィンダーらの「小児および思春期において、アレルギー性喘息をCVリスク因子として認識すべきである」との結論は、上記の方法論的限界を踏まえて慎重に解釈されるべきである。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です